超黒塗膜と立体知覚:陰影と輪郭の違い
反射を抑えても、物の輪郭までなくなるとは限らない。法・壁観の見え方を、低反射素材の研究事例と比較する。
表面の陰影と外側の輪郭
法の正式資料は、漆黒塗膜が木目や陰影を捉えにくくし、木地の丸みと平面のような黒が同じ立体の中で接すると説明している。表面の明暗から分かる凹凸と、背景との境界から分かる輪郭を区別できる。前者が弱まっても、後者まで同じ程度に失われるとは限らない。[1]
この区別は、壁観の戸板にも当てはまる。表面の傷を視覚で確認しにくいことと、2枚の板の位置や厚みを捉えられないことは別である。「見えなくなる」と説明する際は、形のどの情報を指しているかを示す必要がある。[2]

低反射素材の研究事例
2019年にMITが紹介したThe Redemption of Vanityでは、ディームート・シュトレーベと研究チームが、ダイヤモンドをカーボンナノチューブの低反射層で覆った。MITの説明は、明るく輝く物が黒い形として見える変化を、入射光を強く吸収する素材と結びつけている。[3]
この事例と自作は、反射光を抑えることで表面の見え方が変わる点を比較できる。法・壁観の塗料を同じカーボンナノチューブ素材と同定したものではない。MITの測定値を、自作の塗装面の性能として転記することもできない。
照明と記録写真で確認すること
作品の観察では、木地の明暗、塗装面の反射、背景との境界を分けて確認できる。写真の露出を変えた場合も、画像の暗さが変わったことと、作品の塗膜が変わったことは同じではない。低反射素材の効果を1枚の写真だけで断定するより、観察位置と撮影条件を揃えて記録する方が、展示時の見え方を比較しやすくなる。
立体が平面に見えるという表現の範囲
「立体が平面に見える」ときにも、物体が平面へ変形したわけではない。法では露出した木地と被覆面が同じ身体に接しているため、両者の境界は、表面の奥行きを推測する情報が変わる位置でもある。黒い面だけを切り出した写真と、木地や背景を含む写真では、この境界を確かめる条件が異なる。
同じ塗膜でも背景や視点が変われば、輪郭と表面の見え方を別々に検討する必要がある。展示写真を作品の効果の証明として1枚だけ使うより、何が見え、何が判断しにくいのかを記録する方が、知覚の変化を具体的に記述できる。黒を単に不在の象徴へまとめると、形が残りながら奥行きの手掛かりが変わるという、作品に固有の条件が抜け落ちる。

