樹脂の封入は「保存」なのか
相依と沈黙で樹脂が保つものは異なる。形、物質、使用の3項目から、「保存」という説明の範囲を検討する。
固定される形と、残る物質
相依では、樹脂が交換した2つの木片を固定し、木の曲面が樹脂の内側の形を定める。以前のだるまをそのまま保存する構造ではなく、配置を変えた後の形を保つ構造である。「保存」という言葉を使うなら、何をいつの状態で保つのかを示す必要がある。[1]
沈黙ではカセットのリールとほどけたテープが樹脂の中に残る。残るのは物質としての媒体であり、取り出してそのまま再生する機能は保たれない。樹脂が透明であることから、音も保存されていると判断することはできない。[2]
| 確認する項目 | 相依 | 沈黙 |
|---|---|---|
| 形 | 組み替えた木片の配置を固定 | だるま型の樹脂に媒体を封入 |
| 内部を見ること | 木と樹脂の境界が見える | リールとテープが見える |
| 以前の使い方 | 元のだるまの配置は保たれない | そのまま音を再生できない |
音の保存と媒体の保存
媒体と再生機器の寿命には限りがあるため、国際音声・映像資料協会(IASA)の保存指針は、媒体を使える状態で維持することに加え、情報を別の媒体やシステムへ移すことを扱う。物が残っていることだけでは、情報を将来も利用できる条件は揃わない。[3]
この区別を参照すると、沈黙を録音資料の保存方法としてではなく、媒体が残りながら利用できない状態をつくった作品として検討できる。相依では同じ樹脂が別の形を成立させている。素材が共通していても、固定の対象と制作の目的を同じにはできない。

作品の状態を記録する単位
作品の管理では、木片の位置、樹脂との接合部、内部のテープの状態など、作品ごとに異なる箇所を記録する必要がある。「樹脂作品」という素材区分だけでは、どの変化が形や使用の意味に関わるかは決まらない。素材名と、作品として保つべき状態の記述を組み合わせることが、展示や引渡し時の確認につながる。
保存する時点をどこに置くか
「元の姿を保つ」という目的を一律に当てはめると、相依では再配置前のだるまを基準にしてしまう。作品としての保存の対象は、制作以前の材料の姿とは一致しない。樹脂によって木片の位置が固定された時点を基準にするなら、保持する関係は曲面の向きと木片の配置になる。
沈黙では、通常の再生ができないことが作品の構成に含まれる。再生機能を取り戻す処置を、作品の状態を維持する処置と同じに扱えないのはこのためである。材料が長く残ること、使用できること、制作で定めた形が保たれることを区別すると、「保存」は素材だけの性質ではなく、どの状態を引き継ぐかという判断を含む言葉になる。

